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 朝が来た。

 森の優しい香り……。 

「はぁぁぁーー」

 縁は大きな溜め息を付いた。そして木にくくりつけられた体を見て、もう一度大きな溜め息を付く。これが長い長い夢だったらと思う。それならどんなに良いか。

 ああ叫ばずにはいられない。

「ノぉぉぉぉうぅぅぅぅーーーー!!」

 縁の声に驚いた鳥がバサバサと羽根を羽ばたかせて飛んでいく。いや、鳥だったのかも分からない。もしかしたら、鳥の羽を持つ何かだったのかもしれない。落胆しながら木から下りた縁は、昨日と同じように朝露を集めながら水分補給をして歩き出した。さすがに異世界三日目になると、色々となれてくる。森の歩き方や、危険な花やツタ、近づいてはいけない動物なんかも分かるようになってきた。

 私ってば順応しすぎじゃない。

 そんな事を思いながら歩く、歩く、歩く……。

 そしてまた日が暮れだした。

 今日も収穫はゼロ……。

 異世界に来てから何度もついた大きな溜め息を吐き出した。しかし落ち込んでいても何も変わらない。今日も手頃な木を見つけて登ると、クッキーを手に取る。クッキーはこれが最後だ。袋からクッキーを取り出すと口に運ぶ。口の中が乾いていて旨く飲み込めないため、朝集めた朝露入りの手袋から水分補給をする。

「ぬるい……」

 それでも水分を補給できるだけましだ。

 さあもう寝よう。

 明日も早い。

 縁が自分の体を木にくくりつけ終わったときだった。キラリと光る何かが瞳に飛び込んできた。

 ん?

 光?

 よく目をこらしながら光を見つめてみる。すると月や星とは違う温かな光が見えた。

 うそ……もしかして家があるのだろうか?

 光に向かって走り出したい衝動に駆られるが、それをグッと我慢する。この暗い中で月明かりを頼りに歩いたら、確実に異世界の何かに襲われるかもしれない。もしかしたらあの光さえも囮かも……などと考えて背筋が凍る。とりあえず光の差す方向を何度も確認して明日行ってみることにしよう。そう決心して、縁の異世界三日目の夜は終わった。