「この施設で働いてみてどうですか?」

「働きがいがあって、楽しいです」

「あっ……あの……私も……楽しいです」

 私の質問にカルパさん、メアリーさんの順で答えていく。

「そうですか。何か困っていることなどはありますか?」

 これは個人面談でもした質問だ。あの時には皆が口裏を合わせているように、何も無いと答えた。しかし私はそれがウソだと思っている。一人では勇気が出せず言えないことも、二人なら言えることもあるかもしれない。

「正直に答えて下さい。私は二人を信頼してここへと送り出しました。何かあるのなら話して欲しいです」

 二人の瞳を見つめながらそう言うと、二人の喉がゴクリと鳴った。

 何かを言おうとしている……。

 私は二人の口が開くのを静かに待った。すると、メアリーさんが真っ青な顔をしながらも、決死の覚悟とでも言うような様子で、言葉を選びながら口を開いた。

「あの……あの……エン様……私はこの施設に来て……不信に……あの……利用者様……その……虐……」

 いつも気弱そうなメアリーさんが、必死な様子で訴え始めた時だった。部屋にノック音が響き、こちらの返事を待つこと無く、不躾(ぶしつけ)に部屋の扉が開いた。

「おや、エン様。まだこちらにいらしたのですね。これは申し訳ありません。あまりにも静かだったので、もう面談は終わったものと思っておりました」

 そう言ってニコリと笑ったのはパグテノ施設長だった。

 私は視線だけを動かしメアリーさんを確認すると、顔を強ばらせて震えていた。

「施設長、申し訳ありません。もう少しこちらの部屋を使用させて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」

「ええ、かまいませんよ。カルパさんとメアリーさん、分かっていますね。エン様にしっかりと協力してさしあげて下さいね」

 パグテノ施設長の言葉に、二人の体がビクリと震えたのをエンは見逃さなかった。パグテノ施設長が部屋から出て行くのを目で追っ手から、もう一度メアリーさんに声を掛けた。

「メアリーさん、先ほどの話の続きをお願い出来ますか?」

 するとメアリーさんは首を左右に振った。

「……ありません。特に……困ったことは……ありません」

「些細なことでもいいのよ。困っていることがあったら言ってみて」

「本当に……ありません。……大丈夫です」

 二人はそこから沈黙を貫いた。