介護者が虐待をしてしまう背景には、いろいろな要因がある。その中でも多いのが一人で全てを抱え込み、悩んだ末の虐待だ。他には認知症の症状で暴力的になる老人に対して、暴力で返してしまうなどなど……。虐待には、暴力によって相手を傷つける身体的虐待と、言葉などによって傷つける心理的虐待がある。『バカ、アホ、処刑するぞ、ここにいられないようにするぞ、ここを出たら生きていけないぞ』などという言葉で心理的に追い詰めてしまうのが心理的虐待だ。

 介護者も人間なのだ。

 あーっと、獣人か?まあそこは置いておいて……。

 毎日の様に暴言や暴力を振るわれれば、どんなにプロの介護者であっても限界が来て、手を上げしまいたい衝動にかられることもあるかもしれない。しかしそれをしないのがプロの仕事のはずだ。

 私達はプロなのだ。

 やってはいけないことを理解しなくてはいけない。

 スタッフ達にイライラしている様子は見られ無かったが、何か悩んでいることでもあるのだろうか?

 誰かを傷つけてしまうほどの悩みが?

 はぁ……。

 エンは大きく溜め息を付く。

 そんなエンの様子を見たエルラさんが、エンの頭を撫でてくれた。

「お嬢さん大丈夫?」

 優しく頭を撫でてくれるエルラさんを前に、涙が出そうになる。

 こんなに優しい獣人さんを傷つけるなんて……。

 もし、忙しくてこのような虐待という暴挙に出ているなら、対策は日頃の介護負担を軽減することだ。

 ゆっくりとスタッフ一人一人と話をしなくてはいけないわね。