「エルラさんそんなに警戒……心配しなくても大丈夫です。私はあなたに危害を加えるのもではありません」

 そう言いながらエルラさんの手をそっと取ると、手首に青紫の皮下出血を確認した。

 これは?

「エルラさんちょっと良いですか?」

 エルラさんの了承を得てから、袖をまくってみる。するとそこには手首の跡がくっきりと残っていた。これは皮膚の弱くなっている高齢者を無理矢理に立たせたりするときに出来る跡だ。その他にも、痛々しそうな皮下出血が沢山出来ている。

 私はすぐにスタッフを呼び集め、エルラさんの手首を見せた。あくまで手首のみを……。

「これはどうしてこのようになってしまったか、説明できる人はいますか?」

 私は全スタッフ一人一人を見つめながら説明を求めた。するとスタッフ達の顔がサッと青ざめていく。

 少し追い詰めすぎてしまったかしら?責め立てているわけではないのだけれど。

 私はゆっくりと息を吐き出すと、もう一度スタッフ一人一人を見つめた。

「大丈夫です。怒っているわけではないのです。こういうことは起こりえる事です。急いでいるときや、時間が無いときなど、無理矢理に利用者様の腕を掴んで移動させようとすると、このような痣となってしまいます。だから仕方の無いこと……と言ってこれを片づける訳にはいきません。分かりますか?」

 私は子供を諭すように、スタッフ達に語りかけた。

 するとスタッフ達が、コクリコクリと頷いてくれた。

 目に涙を溜めながら私の話を聞き、頷くスタッフ達を見て、私は真剣な顔を保つのに苦労する。

 ああ可愛いな~。

 耳がピコピコしているな~。

 可愛い丸い瞳が潤んでいて庇護欲を誘う。

 ダメダメ、今は真剣で真面目な話をしている所なんだから、だらけた顔を晒すわけにはいかない。

 淑女……私は淑女よ!

 私は唇をグッと噛みしめてから、言葉を選んで皆に問いかけていった。