「施設長、初めましてエンと申します。手紙では何度もやり取りをしていますが、会うのは初めてですね」
「これはこれはエン様ですね。ご丁寧にありがとうございます。施設長を務めさせて頂いているパグテノ・グレイスと申します。さあ立ち話はなんですので、どうぞ中へ」
パグテノさんは人の良さそうな笑みを浮かべながら私達を施設の中へと促した。施設の中は開放感のある広い空間となっていて、天井は高く、目の錯覚で更に広く感じる作りとなっていた。
うん。
広さは十分。
掃除も行き届いていて、清潔感の溢れる場所となっている。
特に問題は無さそうだ。
エンは回りを見渡してから近くにいた、利用者様であるネズミ獣人のおばあちゃんに声を掛けた。
「こんにちは、私はエンと言います」
エンはなるべくゆっくりと怖がらせないように、ねずみ獣人の利用者様に声を掛けた。しかし、ネズミ獣人のおばあさんはビクリと体を震わせると、目を泳がせた。
どうしたのかしら?
怖がっている?
どうしたのかなと、手を顎へと持っていくために手を動かすと、ネズミ獣人のおばあさんはもう一度大きく体を跳ねさせ、首をすくめた。
これは……。
エンはネズミ獣人のおばあさんと目が合う高さまで腰を落とし、ゆっくりと話しかけた。
「急に声を掛けてしまってごめんなさい。お名前を聞いても良いですか?」
ネズミ獣人のおばあさんは、怯えた様子でこちらを見やってから口を開いた。
「……エルラ……です。ネズミ獣人です」
エルラさんは明らかにこちらを警戒していた。
始めて話す私に警戒してしまうのは分かるが、それにしても怯え方が尋常じゃ無い。