*

 今日も今日とて私は賑やかな獣人さん達に囲まれて仕事をしている。

 今は水分補給のために机を囲み、お茶を飲んでいるのだが……。

「今日も良い天気ね」

「ご飯はまだかい?」

「私の部下は優秀ですね」

「我は魔王ぞ」

「まあ大変、ドレスを選ばないと」

 全員が全員違う話をしていると言うのに、何故か会話が成立し頷き合っている。

 これは介護職に就いていると分かるのだが、認知症あるあるだ。この様な現象がよく起こる。どうしてなのか会話が成立しなくても会話が進んでいく。一人一人が好き勝手なことを言っているが、それでいいようだ。

 ほのぼのとしたお茶会は、誰が見ても癒やされる。

 獣人のご老人方はホントに可愛い。

 そんな日々を過ごしていると、いつの間にかレーニン様との悲しい別れから二ヶ月が過ぎていて、私も回りの皆も落ち着きを見せていた。

 そして、離宮の施設には新たな利用者さん達が増えました。

 拍手パチパチパチッ。

 一人目がネズミ獣人のおじいちゃんでマリウスさん。マリウスさんは紳士なのだが、女性とみれば、誰でも口説いてくる。女ったらし……じゃない、女性に優しい紳士のおじいちゃん。

「一緒にお茶でもしようよ。子猫ちゃん」

 そんな言葉が毎日聞こえてくる。

 それを聞いていたティエナがボソリと「いっその事、猫に食われてしまえ。ネズミ」と言っているのが聞こえてくるが、私は聞かなかったことにしている。マリウスさんはティエナの容赦の無い発言を嬉しそうに受け流す。

「ティエナちゃんはいつも辛辣(しんらつ)じゃの。そんなところも可愛いぞ」

「食ってやろうか?」

「ティエナちゃんになら食われたいのう」

「エロじいさん。早くお茶を飲みなさい。脱水にでもなったら大変だろう」

「ほほほっ……ティエナちゃんは優しいのう」

 なんていう会話が聞こえてくるが、ティエナに悪気は無いようだし、マリウスさんもティエナとの会話を楽しんでいるようなので黙認している。マリウスさんが不快な思いをするようなら注意しようと思っている。