本当は自分が一番辛かっただろうに、人々のために自分の力を使い続けた。本当に聖女と呼ぶにふさわしい人だ。

 レーニン様は私の頬に触れながら、優しく微笑んだ。

「レーニン様……ううん……お母さんと呼んでも良いですか?」

 私の言葉に、レーニン様がふわりと微笑んだ。

「ええ、良いわよ。リリちゃんたら今更何を言っているの?」

 こうしてレーニン様はこの国の私のお母さんになった。

 本来利用者様一人に肩入れし過ぎるのは良くないことだ。

 それでも私はこの優しいレーニン様の娘になりたいと思った。

 私が目に涙を溜めながらお母さんと呟くと、温かい手でそっと頭を撫でてくれた。

「エンちゃんは泣き虫ね。ほら、笑って。私はあなたの笑顔が大好きなのよ」

「お母さん……私もお母さんの笑顔が大好き」



 日に日にレーニン様の様態が悪くなっていた。ベッド上でも起きていられるのは数分程度で、言葉を少し交わすだけで息が上がっている。

「リリちゃん……はぁ……はぁ……どうしたのそんな顔をして……悲しそうな顔……はぁっ……ほら、笑ってちょうだい」

 そう言ってレーニン様が私に治癒魔法を掛ける。体に負担が掛かることはダメなのに、何処までも優しいレーニン様。

「だっ……ダメです。力を使ってはいけません。心臓に負担が掛かってしまいます」

「ふふふっ……はぁ……これくらいなら大丈夫よ。はぁ……はぁ……少し眠るわね」

 力を使ったせいで体に負荷が掛かったのだろう。肩呼吸を繰り返しながらレーニン様は眠ってしまった。その様子を見て私は顔をしかめた。

 私は何をやっているんだ。

 レーニン様に心配をかけて、力を使わせて、こんな顔をしていてはダメなんだ。またレーニン様に力を使わせてしまう。レーニン様が起きたら笑って……笑って……笑えるだろうか……。

 悲しみで胸が苦しい。

 私とレーニン様の時間は後どれぐらい残されているのだろう。