「あの……それって、治らないと言うことですか?」

「そうですね。心臓に負担を掛けずに生活をすることぐらいしかもう……」

「そんな……あの、レーニン様は元聖女様ですよね?聖女の力で直すことは出来ないんですか?」

「無理ですな。聖女の力は万能では無い。傷を治す力も、植物を元気にする力も、全ては本人の中にある力を引き出して直すのです。レーニン様の心臓はすでに限界です。そこに無理矢理癒やしの力を送り込めば、状態を悪化させる結果となることでしょう」

「そう……なんですね……」

「仕方の無いことなのです。寿命なのですよ」

 寿命……そうなのだろう。

 それでも、納得がいかない。

 少しでもレーニン様が長く生きられるように、手助けがしたい。

 最後の時間を穏やかに過ごせるように、自分に何が出来るだろうか。

 レーニン様の体力を奪わないように、車椅子での移動は必須だ。

 食事も塩分の多い物は避け、薄味にしてもらおう。そのせいで食を細くさせる訳にはいかないので、しっかりとだし汁を摂って、料理の質を落とさないようにしないと。さっそく料理人であるフクロウ獣人のクリスさんに相談してみなくちゃ。
 
 これで食事は大丈夫だろう。

 エンはスタッフを集め、レーニン様の状態について説明し、今後の業務について話し合ったのだった。



 エンは離宮にある小さな庭を、レーニン様と共に歩いていた。もちろんレーニン様は車椅子に乗っているため、私が車椅子を押している。今日は小春日和という言葉がぴったりの陽気で、ポカポカととても暖かい日だった。ゆっくりと歩いていると、花壇に咲く花から、花の甘い香りが漂ってくる。