同じ学年で、昼食の時にいつも顔を合わせる仲だ。互いに人見知りで、同じく彼女も私しか友人がいなかった。この日も、彼女が食事を持ってやって来たと思って、リラックスした顔で振り返った私は、今日二度目に身体を固めた。固めたというより―――硬直させた。

「……ここ、いい?」

傍に来ていたのは、畠岡(はたおか)理央(りお)と言う、男子生徒だった。
 私は予想外の生徒の「ご来場」に、言葉も出ずただ、壊れた機械人形の如くガチガチに頷いた。彼はどこかよそよそしく会釈すると、小さなテーブルの私の正面席へ腰掛けた。
 彼、畠岡理央は、同じクラスの生徒である。口数は少なく、いつも本を読んだり授業中も寝ていることがままあるようだが、飛び抜けているのは何を隠そうそのビジュアルである。整えた黒髪によく似合うその顔立ちは、女子だけでなく同性から見ても一目置かれるらしいイケメンで、初めて彼の顔立ちを見たら、大抵は少しだけボーっとしてしまうと言える。私も初めて見た時は、一瞬目を奪われた程だ。
 だがそのルックスだけが、周囲の者の態度を軟化させる全ての原因ではない。
 彼の父親は、世界的国産自動車メーカー『FLORA(フローラ)』の会長なのである。創業者は曽祖父にあたり、社内では世襲制が確実視されているそうで、彼はつまり御曹司であり後継者に相当する。そんな彼は勿論クラスの中でも特別視されているようで、口数が少ないらしいにも関わらず、彼の周りには数人の男子生徒と明るい女子生徒が輪になっているのを度々見かける。
 比べて私は、国内ブランドとしてはまだまだ歴史は浅いものの、国内のスーパーでは商品が常連組のそこそこ名の知れたパンメーカーの『立華(たちばな)』の会長、(たちばな)壮也(そうや)の次女である。まさに雲泥の差―――。