湊は自分の女子人気をわかっていない。
 同学年はもちろん、学年が違う後輩も先輩も、湊がいれば目の色を変えてコソコソと話しているのだ。
 ファンクラブもあるって聞いたことがあるし……。


 教室の端で一人、ひっそりとお弁当を食べていた人間が急に人気者と食べはじめたら、なんと言われることか。
 想像して、ぶるりと体を震わせる。


「全っ然、大袈裟じゃないし」

「じゃあなに。俺たち、学校でイチャつけないじゃん」

「いちゃ……、学校では今まで通り! まぁ、……い、家とかならいいけど」


 湊は口に手を当てて、ニヤリと笑う。


「『家で』なんてお前、やることは一つじゃん」


 一瞬言われた意味がわからなくて、ポカンとなる。けれど、すぐに理解した。


「っ、変態!!」


 バシッと湊の背中を叩けば、嬉しそうに笑うからなんだかむず痒い。


「悪かったって。なら、学校の外ならイチャついていいって事だよな?」

「ま、まぁそういう事になる、かな」

「おっしゃ。んじゃ今日、那央の家に遊びに行くわ」

「ええっ、急に!?」

「いいだろ。彼氏なんだから」

「へ、部屋の掃除とか色々あるの!」

「んなの、これからほぼ毎日入り浸る気だから、やんなくていいよ」

「毎日って……」


 片眉を上げて、不満げな湊。


「嫌なのかよ」

「……たまには私も湊の家に遊びに行きたいなって、思ってたんだけど」


 言った後になんだか恥ずかしくて、サッと視線をそらす。


「……マジでなんなの。可愛すぎるのも罪って、このことか」

「なっ、なによ!?」

「うちに来てもいいけど、部屋で俺の隣に座るなよ。押し倒すから。そのまま襲う」

「なんてこと言うの! 変態!」

「そうだよ。男はみんな狼で変態だ。一つ賢くなったな、おバカちゃん」

「っ、湊のバカ!」