「本当はもっともっと芽衣のことを見ていたかった。もっともっと芽衣のためになにかしてあげたかった。……でも、ごめんね。もうそろそろ時間みたいだ」

 その言葉通り、エージ先輩の全身はいつの間にか透けていた。それに蛍みたいな小さな光が先輩の体を取り囲んでいる。
 消えちゃう。……先輩が、いなくなっちゃう。

「っ……いやだっ……! ウソだって言ってよ、先輩……!」

 冗談だって言って、笑ってよ。いつもみたいに、『仕方ないなぁ』みたいな顔してわたしをなぐさめてよ。
 そんなことムリだってわかってるけど、でも。

「芽衣とここで過ごす時間が好きだった。プリクラを撮ったことも、花火を見たことも、全部が奇跡みたいに楽しかったよ」

「そんな、最後みたいなこと言わないで……わたしを救うためって言うなら……いなくならないでよ……。先輩がいなくなったら、わたし……わたし……」

 ぽたり、ぽたり。頬を伝う涙が、制服をぬらしていく。
 そんなのってないよ。せっかく出会えたのに。
 エージ先輩のおかげで、もう一度絵を描こうって思えたのに。

 せっかく気づいたのに……先輩への想い。大事にしたいって、大好きだって、気づいたのに……。

「――ねぇ芽衣、オレの絵を描いてよ」

 いま、なんて?
 顔を上げる。うるんだ視界にエージ先輩の優しい笑顔が映る。
 暖かい、まるで太陽みたいな笑顔がわたしを包む。
 わたしはフルフルと大きく首を横に振った。

「いやだ、なんで今そんなこと言うんですか……?」

「描いてほしいんだ。誰でもない、芽衣だから、オレがこの世にいたってことを残してほしいんだ」