「それで気づいた。ああ、オレはこんな体になっちゃったんだって。死んだのに消えることができなくて、ずっと彷徨ってる……バケモノに」

 ヒュッとのどが鳴る。それは、エージ先輩の音だったのか、わたしの音だったのか。
 先輩の悲しみが、津波のように押し寄せてくる。苦しくて……胸が痛い。

「どうやったら消えるのかずっと考えてた。だってそうだろ? 誰にも見つかることがないのに、存在している意味なんてない」

 そう言い終わったあとに、「いや、そもそも存在はしてないんだけど」と自嘲気味に笑う。

「でも……でも先輩は……――」
「でも」

 わたしが声を上げたのと、先輩が口を開いたのは同時だった。
 最後の力をふりしぼったかのような夕焼けの明かりに、エージ先輩が照らされる。やっと……やっと先輩の顔を見ることができた。
 笑顔。……先輩は、笑っていた。

「でもあの日、芽衣に会えた。……芽衣に会えたんだ」

 ――あの日。
 五月のよく晴れた、とても清々しい、あの日。
 絵を捨てて生きる目的をなくしたわたしは、なにを考えているかよくわからないエージ先輩に出会った。
 あの日から、わたしの毎日が変わった。少しづつ色づいて、いつしか鮮やかに。

「なんで消えないんだろってずっと不思議だったけど……気づいたんだ。芽衣を救うためだったんだって」

 わたしを救うためって……。
 そのために、消えずにわたしの前に現れたっていうの?

 ……ズルい。
 そんなことを言われたら、もう怒れない。

「ふっ……う……」

 叫びだしたいくらい苦しい。
 でももう、わたしがなにを言おうが、先輩はもういないって事実は変わらないんだね。
 そのことが、どうしようもなく寂しくて、悲しい。