薄暗い、夜の匂いがする空は、地平線だけ燃えるようなオレンジ色に染まっている。
 『黄昏時』と呼ばれるこの時間が、わたしは好きだった。

「……エージ先輩!」

 震える声で彼を呼ぶと、いつものように振り返る。
 だけど暗くて、表情がよく見えない……。ねぇ、今、どんな顔をしているの?
 わたしはゆっくりゆっくり近づいて、先輩に一枚のプリクラを差し出した。

 信じたくなかった。「ああ、やっぱり人違いだね」って笑いたかった。
 なのに――。

「ねぇ、エージ先輩。ウソだよね? そんなわけ……ないよね?」

 なのに……小さな四角形の中には、不自然な笑顔のわたしが一人。
 その隣にいたはずのエージ先輩の姿はなかったんだ。
 それでもやっぱり先輩(本人)から聞くまでは、なにも信じないと誓った。

 エージ先輩はフッと力なく笑って

「そっか、気づいちゃったんだね」とだけつぶやいた。

 なにそれ。
 その言葉だけで、もう全部 わかってしまった。……わかりたくなかったのに。

「本当は、このままずっと隠し通しておきたかったんだけど」

「隠し通すって……なに? なんで……意味わかんない!」

 だって先輩は今もそこにいる。存在している(・・・・・・)
 エージ先輩に出会ってから今までのカラフルな日々も、たしかにそこにあったのに。そんなの……おかしいよ。

「……目が覚めた(・・・・・)のは、五月頭の早朝だった。この恰好で屋上にいたんだ。最初はなにが起こったのかぜんぜんわからなくって。でも、『あれ? もしかしてオレ、病気が治ったんじゃない⁉』なんて思って、登校してきた知り合いに手あたり次第声をかけたよ。……でも、誰一人としてオレを見てくれなかったんだ」

 エージ先輩は悲しそうに目を伏せた。

 初めて語られる『エージ先輩のこと』。
 ずっと知りたいと思っていたけど、こんなことを聞きたいんじゃなかったんだ。