まだセミが鳴く、九月。暦の上ではもう秋なのに、まだまだ暑くて夏真っ盛りという感じ。
 そんな中、学校は文化祭の準備でにぎわっていた。
 いよいよ文化祭は明日。わたしの『文化祭実行委員』という仕事ももうすぐ終わる。

「杉咲さん、次三組行ける? わたしは本部にこれ持っていくから」

「うん、わかった!」

 樋口さんに向かって手でOKマークを作る。だけど樋口さんは、表情一つ変えることなくくるりと振り返って行ってしまった。
 相変わらずつれないなぁ。
 でも、そんな対応をされても胸がズキッとしなくなったのは、樋口さんがどんな子かわかったからだと思う。
 やっぱり話せてよかった。これも先輩のおかげだ。

 エージ先輩とは、夏休み中に会ったのは結局あの花火大会の夜だけ。
 連絡先を聞けなかったわたしのミスだ。
 だけどあの夜は話がちがう方向に行ったから……聞けなかったのも仕方がない。
 ……と、下がっていく気持ちをグッと堪えて前向きに過ごした。
 会えたとしても先輩は受験勉強で忙しかっただろうし。それに、わたしはわたしでやることもあったし。

「――じゃあ明日またよろしくね」

 三組の子に明日の確認をとって、教室を出る。
 わたしの仕事はいったんこれでおしまい。樋口さんと約束した時間まではあと少しありそうだ。
 ガラガラ……とゆっくりドアを閉めたら、くるりと方向転換して東棟に急いだ。

 やっと、やっと、やっと! エージ先輩に会える!

 途中、美術室に寄って手さげバッグを手にする。
 どうしてもエージ先輩に見せたいものがあった。
 きっと先輩なら喜んでくれるはず。
 一気に階段を駆け上り、勢いよくドアを開けた。
 
「エージ先輩!」

 わたしの声でエージ先輩が振り返る。
 ひと月ぶりの笑顔が眩しい。