このチャンスを逃したら、次に会えるのは二学期が始まってからになってしまう。
 聞かなきゃ。
 わたしはぎゅっとこぶしを握った。
 
「っ……――」

 意を決して顔を上げたら、エージ先輩がなにか言いたげな顔でわたしを見ていた。
 急に目が合ってドキッとする。
 もしかして、先輩もわたしと同じことを思っていたり……。
 
「最近、塾はどう?」

 だけど、エージ先輩の口から飛び出たのはなんてことないただの質問だった。
 拍子抜けして一瞬答えが遅れる。

「え? じゅ、塾……。えっと、先輩のおかげで、だいぶ授業にもついていけるようになりました。お母さんにも文句を言われることもなくなったし」

「そっか……」

 喜んでくれると思ったのに。
 エージ先輩はなぜか浮かない表情で黙り込んでしまった。
 どうしよう……なんだか先輩の様子がおかしい。連絡先を聞けるような雰囲気じゃないことはたしかだ。
 なにか悩んでいるのかな。だとしたら、今度はわたしが先輩の力になりたい。先輩がわたしを支えてくれたみたいに、今度はわたしが……。

 先輩の肩に手を置こうとしたら、

「それで本当にいいのかな」

 先輩の口が再び開いて、わたしは伸ばした手をピタリと止めた。
 先輩は顔を上げて、わたしをまっすぐ見つめる。真剣な瞳に胸がぎゅっと掴まれる。
 
「親の言う通り勉強して、いい高校に行って、医者になる……それで芽衣は本当に幸せ?」

 ――本当に幸せ?
 先輩の声がリフレインする。
 そんなの、そんなの……。

 そのとき。

 ――ドンッ!

 とつぜん響いた破裂音。ふと夜空を見ると、漆黒の空に大輪の花が咲き誇っていた。