「……ところで、どこで花火を見るんですか?」

「どこって、学校(ここ)だけど?」

「えっ、でも……閉まってます……よね」

 エージ先輩の背後に見える門はしっかりと施錠されていて、簡単に開きそうもない。
 不安そうなわたしを見て、先輩はニッと笑った。

「あ・そ・こ」

 指さす先は学校をぐるりと囲む垣根だ。……って、もしかして。
 「まさか」と言いたげに先輩を見上げたら、いつものいたずらっぽい笑みを返してきた。
 ……嫌な予感がする。
 先輩はわたしの視線を気にせずに指さした場所へずんずん進んでいく。
 足を止めたと思ったら……――たしかにあった。小さな小さな穴が。

「ま、まさか、ここから入ろうっていうんじゃ……」

「ふふふー、そのまさか!」

 やっぱり!

「ちょ、ちょっと――」

 待ってください。そう言い終わる前に、エージ先輩は垣根の穴をくぐって、あっという間に見えなくなってしまった。
 わたし一人、置いてきぼりなわけで。背後からヒューッと生ぬるい風が吹き抜ける。
 せっかく先輩と花火を見るために来たのに、こんな場所で一人ぼっちじゃ、来た意味がない。
 ……行くしか、ない。
 わたしはごくっとつばを飲み込んで、勢いよく垣根に頭をつっこんだ。
 ガサガサガサッ。葉っぱや枝がわたしの頭やら腕やらにまとわりつく。やっと全身くぐり抜けたと思ったら、頭がぼさぼさになっていた。

「……エージ先輩、ここで見るんですか?」

 体中にくっついた葉っぱを手で払いながら先輩の背中に問いかけた。
 門の中、といっても、ここはまだ学校の中ではない。さすがに先輩といえど学校に侵入なんてことは――。