――なんだかドキドキする。

 もうすっかり暗くなった夜道を走る。
 ショーウィンドウに貼られたポスターには、大きな花火の写真とともに『花火大会』の文字が並んでいた。

 『芽衣、一緒に花火に行こう』とエージ先輩に誘われたのが終業式の日。
 塾の夏期講習だからと断ろうとしたわたしに、その帰りに学校でなら会えるねと提案してくれたんだ。
 お母さんには塾に残るから少し遅くなると言っておいたから、きっと大丈夫だと思う。
 たった三十分だけど、エージ先輩と花火を見れるんだ。
 そう思うとドキドキがとまらなかった。

 ――カラン、コロン。

 向こうから女の子たちが歩いてくる。
 きっと直接会場に行くんだろう。
 華やかな色合いの浴衣姿が夜道を明るく照らしている。

 浴衣……。
 わたしは、自分の着ている制服をじっと見る。
 わたしだって、せっかくなら浴衣を着たかった。こんなんじゃいつもと同じで代わり映えしない。
 エージ先輩は……浴衣かな。いつも制服姿だからうまく想像できないけど。

 遅くなっちゃったな……。
 チラ、と腕時計で確認する。もうそろそろ花火大会が始まる時間だ。
 先輩はもう学校に来ているだろうか。
 そもそも夏休み中で学校に入れないのに、どこで見るつもりなんだろう。

 疑問は尽きないけど気にしない。
 先輩と夏休み中に会える! それだけでなにより嬉しかった。

「こっちだよ」

 学校の門の前に、先輩はいた。笑顔でこっちに手を振っている。
 やっぱり制服姿だ。

「遅くなっちゃって……すみません」

「全然! もうそろそろ来ると思ってたし」

 久しぶりに先輩に会えて、心が弾んでいるのがわかる。
 わたし、浮かれてる……かも。