――ゼエ、ハア。

 息が上がる。一気に階段を駆け上ったから、太ももが痛い。
 右手には数枚の白い紙をぎゅっと握りしめ、ただ頂上(屋上)を目指す。
 黄色と黒のしま模様のテープを越えるその動作すらももどかしくって、気持ちばかり焦る。
 早く、早く。
 いつもより重く感じるドアを開けて、

「っ……エージ先輩!」

 大声で呼びかけた。

 だけどそこには誰もいない。
 今日はいないのかな。そう思ったら――。

「こっち、こっち」

 上から声が降ってきた。見上げたら、階段室の梯子をのぼったところから、エージ先輩がわたしを手招きしている。
 なんだ、今日はそっちにいたんだ。なぜか一瞬、もう会えないのかと思ったから、顔を見ることができてホッとする。

「大きな声でどうした――」

 大急ぎで梯子をのぼり、先輩の目の前に手に持っていた紙を突き付けた。

「テスト……!」

 目をぱちくりさせながら、突き出した紙を受け取るエージ先輩。一枚、また一枚とめくっていく。
 わたしは呼吸を整えながらその様子をじっと見守った。

 今日返ってきた期末テスト、それに塾であったテストも含めて、全部で七枚の紙。
 そのどれもが今までとってきた点数より高かった。
 もちろん塾の成果でもあるけど、ほとんどが、わかりやすく教えてくれたエージ先輩のおかげ。
 だから真っ先にエージ先輩に結果を見せたかったんだ。
 先輩ならきっと、誰よりも喜んでくれるはず。

「すごいじゃん、芽衣!」

 案の定、顔を上げたエージ先輩は満面の笑みを浮かべていた。

「エージ先輩のおかげです」 

「芽衣ががんばったからだよ。えらいね」

 ――えらいね。
 そんなこと言われたことがなかったから、少しくすぐったい。