「本当に、わたしだけ食べていいんですか?」

「うん、オレ甘いもの苦手だから。芽衣が食べてるとこ見れたらそれでいいよ」

 ……そんなこと言われても。
 じーっと見つめられて食べようにも食べられない。

「……そんなに見られると食べられません」

「なんでー……見たいんだよ」

 甘い視線にたじろぐ。それでもソフトクリームの端が溶けかかっているのを見て、覚悟を決めた。
 そーっと舌を出し、小さくひとなめ。濃厚なミルクとチョコの甘さが口いっぱいに広がる。冷たくて……おいしい。
 思わず顔がほころんでしまったけど、先輩に見られていることを思い出しすかさず顔をしかめた。
 先輩、まるで自分が食べてるみたいな、幸せな顔。
 エージ先輩といると本当、調子が狂う。

 気まずくなって黙々とソフトクリームを食べていた、そのとき。

 ――ドンッ。

 背中に感じる軽い衝撃。バランスを崩し、前につんのめった。
 危ない、もう少しで倒れるところだった……。

「ゴメンネー」

 わたしにぶつかったであろう女の人が、すれ違いざまにつぶやいた。
 チラとわたしを見て一瞬怪訝そうな顔をしたけど、すぐにクスクス笑い出す。

「……なにあれ、失礼だな。オレ言ってこようか」

「え! いいですいいです!」

 エージ先輩が今すぐにでも女の人を追いかけそうだったから、わたしは慌てて首を振る。

「そう……――」

 エージ先輩はふっとわたしの顔を見て、そして――。

「ぶふっ」
 
 突然ふきだした。