「……先輩、目がいいんですね」

「ああ、両目ともAだからな」

 ってことは、エージ先輩と一緒のところを見られたわけか。
 部活を辞めて男の子と遊んでいる、なんて思われたと思うと、ますます気まずさに拍車がかかる。
 なにか話題を変えないと。なにか、なにか……。

「あ、の、助っ人頼まれるなんて、やっぱりすごいですね」

「うん? いや、そんなことないんだ。レギュラーだったやつが一人、いなくなっちゃったからさ」

 いなくなった……?
 片桐部長の目が寂しそうに伏せられたから、なんだかただ事じゃないことだけはわかった。

「それって――」
「そんな話をしたいわけじゃなくて」

 部長がとつぜん、わたしの肩をガシッとつかんだ。強い力に抗えない。

「杉咲、戻ってこいよ」

 ハッとして部長を見上げた。戻ってこいっていっていうのは、つまり――。
 わたしはきゅっと眉を寄せる。

「もういいんです、絵は……」

「嫌いになったわけじゃないんだろ?」

 泣きそうな声に聞こえて、一瞬「はい」と言いそうになった。
 嫌いになれたらどんなによかったか。
 部長の言葉がわたしの心に影を落とす。

「……ごめんなさい」

 もうこの場にはいられない。わたしは部長の手を振り払って、逃げるように立ち去った。
 秋にやる、毎年恒例の共同制作……わたしが急に部活を辞めたから迷惑しているのかもしれない。
 責任感の強い部長のことだから、こうやって声をかけてきたんだろう。
 申し訳ないとは思うけど……でも、もう決めたことなんだ。

 絵はもう描かないって。