ずるいな。……悔しいけど、やっぱりかっこいい。
 
「どうしたの? だ、大丈夫だった? あそこまで言わなくてもいいよねぇ?」

 周りの先輩が気を遣ってわたしに話しかけてきた。
 たしかにあそこまで言わなくてもいいと思うけど、間違ったことは言ってない。
 いくら推薦とはいえ、塾との両立が大変とわかりながらも「文化祭実行委員」になると決めたのはわたしだ。本気で取り組もうと思ってる人に失礼だった。
 パチンと両頬を叩かれたような、そんな感覚。……目が覚めた。

 わたしは、黙って彼女の出て行ったドアを見つめていた。






「――ヒグチさんのことが気になるんだ?」

 ほんのり赤みがかった空に薄い雲がたなびく。もう少ししたら、きっと美しい夕焼けが広がるだろう。
 その柔らかな日差しに照らされて、エージ先輩の右頬がきらきら輝いて見える。
 
「気になるっていうか……」

 ああ、わたしはなんでまたエージ先輩(この人)に相談なんてしちゃってるんだろう。小さくため息を一つこぼして、そっと目を伏せる。

 うれしい話、悲しい話、困った話……今までのわたしは友達にも親にも言うことができずに、ただ自分の心の中にしまっておくことしかできなかった。
 だからなにが起こっても、誰かに話したいなんて思ったことはなかったんだ。
 だけどさっき、実行委員での話し合いが終わってすぐに思ったのは、『エージ先輩に話したい』だった。
 そうしてわたしは気づいたらまた、屋上に来ていた。
 なんでだろう。この前会ったばかりのよく知らない人なのに。