「先生! 杉咲さんならピッタリだと思います!」

 自分の名前が聞こえてきて、ビクリとした。教室の一番前の席、手を挙げた紗枝がこちらを振り返って悪戯っぽく笑う。

「たしかに、杉咲さんならしっかりしてるし、向いてるよね!」
「テキパキしてるしね」
「杉咲さん、お願い~!」

 考えるのも面倒なのか、周りもどんどん紗枝に同調し始めた。
 
 もちろんやりたくは、ない。
 今だって勉強に専念するために美術部を辞めたところなんだ。放課後も残る可能性がある実行委員なんて、できるわけ……。

「でも芽……杉咲さんは勉強が大変だから……難しいんじゃないですか? ねぇ、芽衣」

 紗枝の右隣、美優が恐る恐る手を挙げて言った。言葉だけ聞くとわたしのフォローをしているようだけど、その瞳の奥には『そんなことないよ』を言ってほしいという期待が見え隠れする。

 『ピッタリ』『しっかりしてる』『テキパキしてる』

 ほめ言葉を並べてはいるけれど、要はわたしに面倒事を押し付けたいだけ。
 みんな、わたしが断らないと思っているんだ。

「杉咲さん、どう? みんなこう言ってるけど……できそう? 杉咲さんにやってもらえたら、先生もすごく助かるんだけどな」

先生までもがなにかを訴えるような瞳で見てきて、

「……やります」

 気づいたらそう答えているわたしがいた。
 その瞬間、クラス中が安堵したのがわかった。

 いい子ごっこだ。
 本当は全然やりたくないのに、「実は最初からやりたいと思ってたんです」みたいな顔をして。
 わたしがこう答えるとみんな喜ぶから。
 塾との両立なんて難しいって、あとで絶対後悔するってわかっているのに……断れない。