そんなこと、頼んでないのにな。
 思わず苦笑したら、その笑みの意味を勘違いしたらしい、紗枝が得意げにプリを差し出してきた。
 小さな四角の中、誇張された大きな目の二人がわたしをじっと見つめる。

「ほらこれ、昨日のプリ! 芽衣にもあげるね。すっごく楽しかったんだよ~」

「芽衣も部活さえなければねー」

 残念そうに眉を寄せる美優。
 部活は辞めたって言ったのに。わたしの話なんて、全然聞いていないことがわかる。
 もう一度言うのも面倒くさくて曖昧に笑い、無言のままプリを机の中に突っ込んだ。

「あっ、チャイム鳴った!」

「またあとでね、芽衣~」

 朝のチャイムとともに自分の席に戻る二人。その背中を見送って、やっと息が吸えた気がした。

 朝時間は、九月にある文化祭についての話し合いだった。
 なんでも、実行委員をクラスから一人選ばなければならないらしい。
 「実行委員」なんて聞くとすごく楽しそうに思えるかもしれないけど、実際はただの雑用だ。
 クラスの意見をまとめて、それを委員に報告して、必要なものをまとめて、予算内におさまるように計算して――。
 去年、一年のときのことを人づてに聞いているので、当然誰もやりたがらない。

「誰か……立候補してくれる人はいない? 今日中に決めなきゃいけないのよね~……」

 誰も手が挙がる様子がないので、先生は「困ったなぁ」とつぶやいた。きっと「実行委員」と聞いてみんながやりたがると思っていたんだろう。
 先生は教室をぐるりと見渡して、「推薦でもいいんだけど」と言ってわたしをじっと見た。