『なんで昨日、塾に行かなかったの!?』

 朝、顔を合わせたときの第一声がこれだった。耳を塞ぎたくなるほどの甲高い声。

『初日から休むだなんて、あなたどういう神経しているの? もう本当に信じられない』

 本当は屋上から飛び降りて、今頃は天国にいたかもしれないんだよ。そんな言葉が頭をよぎる。
 でも言ったところで鼻で笑われるのもわかっていた。お兄ちゃんとちがってそんな度胸もないくせに……って。

『わかってるわよね? お兄ちゃんみたいになったら困るのは芽衣なのよ』

 もう何百回も聞いたセリフ。わたしを心配して言っているわけじゃない。お母さんの中はいまだに『お兄ちゃん』でいっぱいなんだ。

『……まさか、まだ絵を描いているわけじゃないでしょうね』

 それだけは聞き捨てならなくて。
 わたしは思わず「大丈夫、昨日は体調が悪かっただけだから」と返した。
 お母さんの言う通り部活を辞めたのに、まだ絵を描いていると思われるのは心外だ。
 体調が悪かったのも嘘じゃない。
 それでもお母さんの機嫌を取るような言葉を言ってしまったことに対して、すぐに自己嫌悪におちいる。

 いつも、こう。
 本当は言ってやりたい言葉があるのに、全部お腹の中で溶けてぐちゃぐちゃになってしまうんだ。
 口から出てくるのは、いつもお母さんにとって『都合のいい』言葉ばかり。
 わたしは……いつまでこう(・・)なんだろう。

「――それがさぁ、最新の機種が揃っててすっごい盛れたんだよね~! ゲーセン内にソフトクリームも売ってて、それがめちゃ盛りで……って芽衣、聞いてる!?」

 これみよがしに口を尖らせた美優の顔が近づいて、わたしはボーッとしていたことに気づいた。
 わたしの机の周りに紗枝と美優がやってきて、おしゃべりが始まっていたんだった。

「あ……ごめん」

「もーっ! 芽衣のために話してるんだよぉ?」