『何かあると、眠れなくなるの…変わらないね』

電話口の那樹の声は、少し気だるげで、頑張ってかけてきてくれたんだと分かった。


「そこまで気を使わないでよ、寝なよ」

『不安そうな顔、してたでしょ』


那樹がクスッと笑う。


『…なんでも分かるよ。……ずっと好きなんだよ。みやびの、こと。』


私も好きだよ。

あんなに酷いこと言った私がそう言える権利はないだろう。

なんでこんなに好きでいてくれるんだろう。


『言いたくないなら、言わなくていい。…だから、さ、』


電話口の、なんだか眠たげで、吐息混じりの声で那樹はささやくように言葉を紡ぐ。


『みやび、大丈夫だよ。…私は、みやびを嫌いになったり、離れたり…もうしないよ。』


私は目から大粒の涙を流していた。

那樹はこんなに私と向き合ってくれているのに、私はずっと自分の過去に縛りつけられて、過去にも今にも何も向き合えていない。

すんなり受け入れられるほど、私は強くなんてなかった。


「那樹…」


泣いてるのなんて、絶対バレバレだ。
電話で良かったと思った。

もう泣きすぎて、ボロボロだ。



「全部終わったら、ケジメをつけるから…待ってて」


『…うん』



その後、気を紛らわせようと那樹は電話を切らなかった。
くだらない昔の話をした。

その時だけは、なんとなく昔みたいに笑えた気がした。