真凜は1泊もせず、この街を出発した。
どうりでバッグ1つなわけだ。

本当に私に逢いに来ただけだった。


「…」


私は真凜から受け取った、今年のダンスの全国大会のチケットをぼーっと見つめていた。


「みやび?」


たまたま、恐らくバーに出勤する前の那樹と会った。

私が例の件を断ってから、那樹はその話題を私に振ってくることはなくなっていた。
相変わらずライブハウスでのライブはしてるみたいで、忙しそうだ。


「なに?それ。」

那樹が、私が手に持っていたものを指さす。


「なんか、知り合いが、映画観ないかって、チケット…」

映画のチケットといえばネットで事前予約したり、その場で買ったりする方が主流だ。
しかも、このサイズ…

嘘だと見抜かれそうな嘘をついてしまった。

那樹にはそもそも大学に行ったことも、体調のせいで辞めたことも、何も言っていない。



「そっか!」



那樹は一切気づいていない様子だった。

内心少しほっとした。


「今日もバイト?」


私は何事も無かったかのように那樹に話しかけた。


「うん。今日予約も多いみたいだし混みそう…」


たわいもない会話が、心の乱れを少しでも隠してくれているように感じる。