「髪切れよ」

光は那樹に言い放つ。
いつも口が悪い弟ではあるが、いつも以上に荒々しい物言いだ。


「…無理。」

「過去と決別しなきゃ、なれないってことだろ。」

「ごめん那樹。それには俺も同意だ。」


本人だって分かっている。
だけど、辛いのは那樹だ。


初めてどこかから声がかかった時、それはアイドルバンドやりませんか?、といった内容だった。

その時見た目を変える提案はしていた。



『私の、この、この髪を、好きだって言ってくれたんです。』

語られたのは、那樹の過去。

『だから、…いつか、見つけてほしい。』


些細なことかもしれない。
それでも那樹と、そして"みやび"という子が過ごしていた時間が那樹には何物にも変え難い、尊い記憶だったということが、あの那樹の表情が思い描いていた。




だから、




「え!?」

「な、那樹!?」


那樹の高校の卒業式の直後、急にいつものカフェに俺と光は呼び出された。

そして俺らの前に現れた那樹は全くの別人のようだった。

長かった髪の毛を短く切り、そして黒髪を金髪に。
いきなりギャルみたいな容姿になって登場したのだ。


「那樹、あんだけ躊躇ってたのに、」

「負けたくないって思ってしまいました。」