そんな自慢話、聞きたくもない。
何も言わないまま手を洗い、ふたりとは目を合わせないようにして部屋に向かった。


しばらくしてから階段を上る音が聞こえてきて、ノックもなしに母親が部屋に入ってくる。


「ねぇ香音、どうしてそんな冷たくするのよ。遥だって、香音ともっと話したいって言ってるわよ」

「私は話したくない」

「何よそれ」


かっとなった母親にぶたれるかと思ったが、母親は私に手を上げなかった。
その代わりに大きなため息をつくと、ぎしりと音を立てながらシングルベッドに腰掛けた。


「勝手に座んないでよ」

「別にいいじゃない。私が買ってあげた物なんだし」

「正確にはお母さんが惚れた男がでしょ」


母親と妹と私、現在三人で住んでいるこの家をくれたのは所謂母親の元彼。
一時期四人で住んでいた時もあったほど仲は良好だったのだが、ある時私たちを置いて出て行ってしまった。


金は残していったところだけが唯一の救いだっただろう。