つい数週間前まで美しく咲き誇っていた桜はもう散った。
あんなに美しいのに、すぐに散ってしまうのはなぜなのだろう。
それとも、すぐに散ってしまうからこそ美しいのか。


どちらが正解かなんて私には分からない。
答えが分からなくたっていい。


そんな答えより大事な存在が、私の近くにいるのだから。


春に比べると夏の方が、地面に揺れる影が短いような気がする。
どうしてなのだろうと思って一度調べたことがあるけれど、意味の分からない言葉が並ぶばかりですぐにサイトを閉じてしまった。


自分の影を見つめながら歩き、家に着いた。
学校を出る前に携帯も確認してきたし、きっと大丈夫だろう。


「ただいま」


玄関に並んだ靴はふたつ。
母親の物と、妹の物。
よかった、今日は男を連れ込んだりしていないみたい。


リビングに続くドアを開くと、楽しそうに話しているふたりの姿があった。


「あ、香音おかえり。聞いて、遥がね、テストの成績学年で一位だったって」