知らず知らずのうちに身体に力が入っていたみたいだ。
その理由はきっと、隣にいる人のせいだけど。


「指番号ってのがあるから、それ覚えなきゃ。って言ってもそんな難しくないよ、親指から一で、人差し指が二。で、三、四、五だね」

「あー、何かありましたこんなの。鍵盤ハーモニカとかで」

「すっごい懐かしいの出してくるね」


渋谷先生はひとつずつ、丁寧に教えてくれる。
私がうまく出来なくても、やさしく教えてくれた。


そうして少しずつピアノに慣れてきた頃、校舎にチャイムが鳴り響いた。


「もう終わり?いいとこだったのに」

「ごめんなさい、私が覚えるの遅いからですよね」

「いや、俺が教えるの下手だからかも」


お互いに部屋を出る支度をして、音楽室の前で別れた。
昇降口で靴を履き替え、外に出る。
夕方とはいえど蒸し暑く、季節の移ろいを感じた。


どんどん、季節が変わっていく。
それは喜ばしいことでもあるのだろうけど、私としてはあまりいいことのように思えない。