「彼女はいないよ。でも、好きな人ならいる」

「そう、なんですね」


───どうして、悲しそうな顔をするの?


好きな人がいるんだろう、佐々木さんは。
それはきっと俺じゃない。
俺よりもかっこいい人なんて沢山いるし、佐々木さんは俺を『生きる意味』としか思っていないはず。


俺のことを好きだなんて、あるわけが───。


「先生」


数メートル空いた距離。
それは俺と佐々木さんの心の距離をも表しているかのようだった。
この距離は短くなる?それとも、開いていく一方?果たして、どちらなのだろう。


「好き、です」


───答えは、前者のようだった。


佐々木さんは口を押さえ、自分が発した数秒前の発言を悔いるような表情をしている。
俺は何も言えず、動けず、ただ佐々木さんを見つめることしか出来ない。


「ごめんなさい、私、なに言ってるんでしょう」

「佐々木さん」


部屋を出て行こうとした佐々木さんの腕を掴んだ。