自分から助けを求めたのに、いざ自分が傷つくかもしれないとなると、突き飛ばす。
結局私は、なにも変われていないのだと思った。


渋谷先生と話すようになって、少しは変われたような気がしていた。
明るい、普通の子になれたような。


でもそんなの幻想でしかなかった。
一度植え付けられた価値観が変わることはない。
一度濁を知ってしまった人間は、清に染まりきるまで時間がかかる。


「やだよ。降ろしたって行くとこないんでしょ」
「そうですけど。だからと言って、先生の家に上がるわけには」
「別に良くない?バレなきゃいいし」


話が通じなくて嫌になる。
バレなきゃいい、それはそうだ。
だからといって誰かに見られる可能性がゼロな訳ではない。
いつでも、どこにでも、危険性というものは隠れている。


「先生、いい加減降ろして」
「怖いんでしょ」


渋谷先生の横顔を見る。
どんな顔をしているか知りたいのに、全く掴めない。