「なにそれ。最低な親じゃん。佐々木さん冷静すぎるって」
「そうですか?それより命の危険を感じてるからですかね」


渋谷先生は周りに人がいないことを確認すると、私の手を取った。
そのまま引っ張られ、車に押し込まれる。


「先生?えっと、私なんで車に」
「行くとこないんでしょ?」
「そうなんですけど、その」
「俺の家来ればいいじゃん」


返事をする間もなく、車にエンジンがかけられる。
渋谷先生はなにも言わないまま車を走らせ、門を越えた。


信号に引っかかって、車が停まる。
この状況はいけない。まずい。


ここにいてはいけないと、今すぐに車を降りなくてはいけないと気づいているのに、心地よさが私にまとわりついてくる。
いつもなら、嬉しくて仕方ないのに。
まとわりついてくる重ささえ、私には心地よかったのに。


今はそれを、突き飛ばしてしまいたくて仕方ない。


「先生、降ろしてください」