「あれ、何か珍しいの持ってる。何するの?」
「この前本読むの好きって言ったじゃないですか。どうせなら、書いてみようかと」
「小説書くってこと?いいじゃん、できたら見せてよ」
「いいですけど、そんな簡単にはできないと思いますよ?かなり長めのもの書く気ですし」
「別にいいの」


そう言って渋谷先生が立ち上がる。
弾こうとしたのか一瞬ピアノに視線をやり、すぐにまた私がいる方に視線を戻した。


「弾かないんですか、ピアノ」
「今日はね。佐々木さんのこと見てようかなって」
「やめてくださいよ、見られてると集中できません」
「でも俺今日することないんだって」


ぼやきながらファイルや資料が大量に入ったトートバッグを漁っている。
思い出したようにノートパソコンを取り出し、何やら作業を始めた。


渋谷先生がキーボードを打つ音が聞こえてくる。
時々マウスのクリック音と、渋谷先生のため息も。