「そうなんだ。ごめんね、突っ込んだこと聞いちゃって。私もできることはするから、なにかあったら頼って」


町田先生は私に手を振ると、身を翻して去っていった。
爽やかな香水の匂いが香る。
私が出かける前に手首につける香水とは、全く違う匂いだと思った。


「おーい、教室入れー。授業始まるぞー」


野太い教師の声が聞こえて、私はゆっくりと教室に向かって歩き出した。
私には眩しすぎる日の光が、窓から何本も差していた。






音楽室に向かおうとしたらまた町田先生に捕まって、立ち話をしていたら少し遅くなってしまった。
小走りで音楽室に向かい、通り過ぎる部活生が訝しげに私を見ている。


多少息が荒くなりながら、音楽室のドアを二回ノックする。
ドアの向こうから呑気な声が返ってきて、それを合図のように中に入る。


渋谷先生は椅子に座り、机に置いたプリントを見ている。
赤ペンを手に持っているから、きっと生徒の提出物でも見ているんだろう。