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「佐々木さん」


騒がしすぎる昼休み。
廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。
振り返った先にいたのは、確か音楽科の町田先生。


「町田先生。なんですか」
「ちょっと気になることがあって。放課後って空いてるかな」


放課後。
そのワードに、私は返答を躊躇ってしまった。


放課後は、先生と会える唯一の時間だ。
音楽の授業があれば会えるけれど、授業の時間と放課後の一時間では意味が違いすぎる。


「ごめんなさい、放課後は用事があって。他の時間じゃだめですかね」
「そっか。じゃあ今聞いちゃうね。佐々木さん、お家のことで困ってることってある?」


町田先生が、一歩私の方に踏み込んでくる。
現実の距離も、心の距離も。どちらにも、町田先生は私に近づいてくる。


「家で困ってること、ですか。えっと、どうして」


まずは一回、とぼけてみることにした。
私の家庭環境なんて誰にも伝えていない。