渋谷先生に抱きしめられたのは、飛びかけたあの日以来。


「先生……?」
「包み込むって言ったでしょ。まずは物理的にね?」


言っている意味が分からなくて、思わずくすりと笑った。
私達は教師と生徒という関係であって、こんなこと、いけないはずなのに。


私の腕はだらりと垂れている。
渋谷先生の腕は私の二の腕に触れていて、くすぐるように指先が動く。


振り払うことだって、できる。
渋谷先生の手を取って、睨み付けることだって、できる。


渋谷先生の温もりを握りこむように、私はそっと腕に触れた。
振り払うこともなく、離すこともしない。
どちらかというと反対で、今、この温もりを全身で感じようとしている。


誰かに抱きしめられるのは、渋谷先生が初めてだと思う。
そう自覚して寂しくなった。


普通に、親に愛されている子であったのなら、ハグのひとつやふたつ簡単にしてもらえるんだろう。