「え?いや、実はね」

「本当ですか?私超能力とか存在しないと思ってた人間なんですけど」

「うそに決まってるじゃん、佐々木さんが顔に出やすいだけ」


思わず顔に触れた。
高校に入って、性格を薄く薄く、ないもののように押し潰して、誰にも自分を悟られないようにした。


『なに考えてるのか分からない』と陰口を叩かれたこともあった。
すべて気にしないようにして、自分を押し殺すことに努めた。


私は自分を、自分の心を守るために、大きい壁を築いたのだ。
心を包んだ、分厚い壁を。


その壁は誰にも破らせない。
一歩たりとも踏み入れさせない。
ヒビが入ったとしても、壊される前に必ず修復する。


───なのに。


誰にも破られなかった、崩されなかった私の中の分厚い壁が、先生によってどんどん壊されていく。


柔いものを破るように、あっけなく、渋谷先生は壁を壊す。


私はその壁を壊さないように、心を守っているその壁が壊れないように、この理不尽な世界に必死に抗って生きている。