終章


ありふれたマンションの屋上。
私はひとりで、街を見下ろしていた。


沢山の人が行き交う様子が見える。
制服を着た高校生、スーツを着た社会人、ふらふらと歩いているおじさん。
ここから見ると、水槽の中にいる魚を見ているような気持ちになってくる。


ふと、空を見上げた。
空は相変わらず青い。
今日は雲ひとつ無い青空だから、余計に青さが目立つ。


もう、空を怖いとは思わない。
自分で言うのもなんだけど、私は少しだけ、変われた。
ある人のお陰で、私は強くなれた。


その人は優しい人だから、『俺のお陰なんかじゃない』と言っていたけれど、私はやっぱり、あなたのお陰で変われたと思う。


そうして空を見上げていると、ドアが開く音がした。


知らない人が来たか、と身構える必要はない。
ここに来る人はひとりしかいない。


「香音」


私を呼ぶ声に、振り向く。
薄手のカーディガンを羽織った蒼真くんは、私の隣に並んだ。