「違う」


香音の言葉を強く遮った俺を、彼女は驚いたように見ていた。


「香音は変わった。それは、そう思う。でも、俺のお陰なんかじゃない。紛れもない香音自身が、自分で自分を変えたんだよ。違う?」


初めて屋上で出会ったあの時。
空を眺めていた香音は、触れたら割れてしまいそうなほどに儚く見えた。
でも今俺の隣にいる香音は、凜としていて、美しくて、強く見える。


「そう……なのかな」

「そうだよ、きっと」

「そっか。じゃあちょっとだけ、大っ嫌いな自分のこと、好きになれたかも」


そう言って笑う香音を見て、俺は車にエンジンをかけた。
鮮やかな水色の空の下、俺たちは笑い合った。