───もう、ここには来ないんだ。


毎日飽きるほど繰り返した現実が、当たり前だと思っていた日常が、もう終わる。
終わりがこんな急に訪れるとは、予想していなかった。
てっきり数年後───五年後、十年後、十五年後。もっともっと、後だと思っていた。
それでいいと、思っていた。


なにかが終わる。それは寂しく、虚しいこと。
終わらせたくないものだってある。だからこそ人間は必死にあがき、生きている。
でも終わりと同時に、始まるなにかがある。
終わりと始まり。意味は正反対な言葉なのに、限りなく近い関係で結ばれている。


俺の日常だったものは、今日、終わる。
高校教師としての生活は、終わりを告げる。
明日から、いやここを出たときから、また新しい日常が始まる。


───大好きな人との、愛おしくて堪らないような日常が。


俺はしまおうとした内履きを手に持って、下駄箱のドアをパタンと閉めた。
大きいガラス張りのドアを開け、外に出る。