「───渋谷先生」


廊下の窓から見える空を見つめながら立っていると、俺の鞄を持った町田先生に声をかけられた。


「町田先生」

「これ、どうぞ」

「あぁ……ありがとうございます」


町田先生から鞄を受け取る。
彼女は俺の隣に立つと、同じように遠くの空を眺めた。


「言いたいことがいっぱいあったんですけど……いざ渋谷先生を前にすると、言葉が出てこないです」

「言うなら今のうちですよ。俺もう、ここに来ないので」


自虐的な口調で言えば、町田先生が眉をひそめた。


「それ、ジョークのつもりですか?笑って良いんですかね」

「どうぞ笑ってください。もうプライドもなんもないので」


声を上げて町田先生が笑い、俺に向き直る。
下唇を噛んで思い詰めたような表情をしている。


「町田先生はなにも悪くないですよ。悪いのは俺たち……いや俺です。町田先生が責任を感じる必要はないです。だって、先生は正しいことをしたから」