「育てた?自分が?───笑える。男のとこばっか入り浸って、私のことなんてどうでも良かったくせに」

「自分の娘がどうでも良い訳ないでしょう」

「そんなことない!普通自分の娘に金せびるかなぁ?普通の母親ってそんなことしないんだよ。どうでも良いなんて思ってない、普通の母親なら」


瞳の縁に涙を溜めて、ぶたれた頬も気にせず怒りをぶつける香音を、俺は黙って見ていることしか出来なかった。
香音の母親はというと、口を開けたまま呆然と立ち尽くし、涙で頬を濡らしていた。


言葉が見つからないのか、はたまた言いたいことがありすぎて言葉に出来ないのか、ふたりはなにも言わないまま見つめ合っていた。


「───お取り込み中失礼しますが、お母さん、少しお話が。渋谷先生、一旦退出していただいても宜しいでしょうか」


母親と娘の修羅場を破ったのは校長先生の一言だった。
俺はすぐに校長室を出て、ドアを閉める。
職員室に荷物を取りに行こうか迷ったが、香音がいる場所から離れたくないと思い、ドアの前で立っていることにした。