これで記入してください、と言わんばかりに隣に置かれたボールペンを手に取り、必要事項を書き入れた。
空欄が埋まった退職届を校長先生に渡す。


「最後に、生徒に挨拶でもしますか?そろそろ生徒が登校してくる時間ですが」

「いえ……そんな資格は、俺にはないので」


では、と一礼をして立ち上がり、部屋を出ようとした――その時。
コンコン、とノックが鳴った。


「校長先生、連れてきました」

「ああ、入ってくれ」


連れてきた?誰を?
ドアが開き、入ってきたのは――香音だった。


「……佐々木さん」

「……渋谷先生」

「どうぞ座ってくれ。渋谷先生も」


校長室を出ようとしていたのに、ソファに逆戻りだ。
先程も座っていた場所に香音とふたり並んで腰掛けた。


「佐々木さん、どうしてここに呼ばれたのか……分かりますよね?」

「はい。退学ですか?私」


微笑みを浮かべながら、淡々と言葉を並べる香音に吹き出しそうになった。