校長先生へ問いを投げかけた。
彼は少し考えるような素振りを見せたあと、答えを出した。


「いけないことでは、ないと思いますよ。人間はそう思うのが普通です。ただ、渋谷先生の場合は、相手が少し……悪かったのでは?」


好きになってはいけない人など、いるのだろうか。
そりゃ家庭のある人を欲してはいけないだろう。
それは分かるけれど、『好き』に良いも悪いもない気がする。


だめだと分かっていてもどうしようもなく惹かれることだってあるし、これが正解だなんていう恋はない。
相手が悪かった?そんなこと、見物人だから言えるんだろう。


俺たちの間にある愛など知らず、第三者として見ているから、そう言えるんだろう。


「……渋谷先生には、然るべき処分を受けてもらいますから」


一番大事な言葉をさらっと言い残して、校長先生はなにかを机の上に出した。
表面に『退職届』と書かれた茶封筒。
封を開き、中に入った紙を取り出す。