お互いなにも言わないまま、沈黙が流れる。
吹奏楽部が演奏している金管楽器の音だけが、遠くで響いている。


突然暗澹とした表情で、町田先生がこぼした。


「……好きだった」

「え?」

「ずっと好きだったの。渋谷先生のこと」


予想外の発言だった。
そんなこと思いもしなかった、という表情をしていたのだろう、町田先生が薄く微笑んだ。


「知らなくて、気づかなくて当然。誰にも言ってないし、誰にも気づかれないようにしてたから」

「ごめんなさい、私」

「佐々木さんが謝ることないよ。謝るのはわたし」

「なんで、町田先生が謝るんですか」


微笑みを崩し、瞳から滴をひとつこぼした。
膝をきゅっと抱え、顎を乗せながら口を小さく開けている。


「わたし、最低なの。好きな人の幸せがわたしの幸せなはずなのに、わたしはそれを壊そうとした」


そんなことない、と言いかけて、寸前で踏みとどまった。