第四章 ミルクティーの音色


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幸せな夏休みもあっという間に過ぎていき、気づけばもう登校開始から一週間が経った。


毎日だらけてばかりだった身体は体力が落ちていて、最初は学校のリズムについていけなかったけど、少しずつ感覚が戻ってきた。
まぁ相変わらず授業はつまらないし、意味があるとも思っていないのだけれど。


たったひとりのために、私は学校に来ている。


音楽室のドアの前に立ち、ノックを二回。
「はーい」と伸びやかな声が返ってくる。


夏休みが終わっても、放課後に音楽室に通うという習慣が変わることはなかった。
一ヶ月近くあった夏休みの間もほぼ毎日のように会っていたけれど、だからと言ってこの時間がいらないというわけではない。


好きな人には毎日会いたい。そう思ってしまう私は、貪欲なのだろうか。


「やっと来た」

「そんな遅れてないですよ」

「そう?なんか時間がゆっくりな気がした。香音がいないからかな」


ピアノの前の黒椅子に腰掛けた彼が笑った。