ゆっくりと歩いていく蒼真くんについていく。
歩くスピードもいつもとは段違いに遅い。
なにが蒼真くんの足を重くさせる?
得体の知れないものに苛立ち、今すぐにでも蒼真くんを抱きしめたくなる。


痛いくらいに、苦しいくらいに抱きしめて、大丈夫だよと言ってあげたい。
この世の不条理なことすべてから、蒼真くんを苦しめるものすべてから、守ってあげると言ってあげたい。


もう何度目かも分からない来訪となる音楽室に足を踏み入れ、取りあえず窓際の椅子に座った。
窓際にしたのは、蒼真くんがそこにいたから。


「……どうしたの、蒼真くん」


窓の先を見つめ続けている瞳には、涙が溜まっていた。
なんで、泣いているの?そう聞けたら楽なのに、蒼真くんが放つオーラが、『何も聞くな』と言っているような気がする。


だから代わりに、腕を伸ばして蒼真くんのほっぺをつねった。
案の定彼は驚いて、私の手を払おうとした。


「痛い?」

「痛いよ、離して」