「私もすっごく、怖かったんです。久しぶりに、不安になりました。だから屋上に行ったんです」

「そういうことだったんだ、屋上にいたの。ちょっと雰囲気違ったのも、夢のせい?」

「はい。先生がいなくなっちゃったらどうしようって、怖くて」


渋谷先生が重なっていた手の向きをくるりと変えて、指と指を絡ませた。
離したくない温もりが、そこにある。


「大丈夫だよ。俺は。ずっと、隣にいるから」


なんの確証もない、ただの言葉。
本当かもしれないし、嘘かもしれない。
儚く消えゆくかもしれない。
掴んでも、気づかないうちに手の中から去ってゆくかもしれない。


それなのに、なんの確証もないそれを、私は信じずにはいられない。


「私も、先生と一緒にいたいです」

「一緒にいたい、なの?」

「一緒にいます。ずっと」


言い終わる前に、立ち上がった渋谷先生に抱きしめられた。
きつく抱きしめられて、息が苦しい。
その苦しさごと、私は愛している。


開けていた窓から風が入ってきて、カーテンを膨らませる。
抱き合う私たちを、そっと撫でる。