だから、学校に来た朝方は、不安でいっぱいだった。


怖いことがあったら、不安になったら、死にたくなったら、屋上に行くと決めていた。
街を見下ろして、空を見上げて。
空に包まれるとより怖くなるけれど、抱えている不安と比べたら大したことない。


屋上を訪れるのは、一ヶ月ぶりだった。


その一ヶ月という期間は、ここで渋谷先生と会ってから今日までの時間と同じだった。
渋谷先生と出会って、一ヶ月。


その間、私は一度も屋上を訪れなかった。
不安など抱かず、過ごせたのだ。
渋谷先生が私を、満たしてくれたんだ。


だからこそ、夢の中とはいえど渋谷先生を失うことは、なによりも悲しかった。


ひとりでフェンスにもたれて街を眺めていると、ドアが開く音がした。
一瞬驚いたけど、きっと渋谷先生だろうと思った。
案の定ドアの近くにいたのは渋谷先生で、なにか言いたげな表情をして私を見つめていた。


『何してんの、佐々木さん』


その問いには答えなかった。
言えないようなことをしていたわけではない。ただ、問いに対応する答えを持ち合わせていなかっただけだ。